伝統工芸の新たなウエーブ
7月7・8日、富山県高岡市を視察しました。訪問先は2つの行政施設と元気な地域企業3社です。
①富山県総合デザインセンター
富山県はデザインを産業と結び付けた取り組みを進めています。総合デザインセンターはその支援の中心で、1988年に第3セクター㈶富山技術開発財団に「富山インダストリアル・デザインセンター」を設置し、活動をスタートしました。
ハードとソフトの両面から支援しており、ハード面ではCADなど3Dデザインソフト、3Dプリンター、フォトスタジオなどを擁しており、中小事業者のニーズに対応しています。昨年度の年間利用件数は1296件、相談件数532件で4人の研究員が専門分野を活かしサポートしています。
ソフト事業は1990年から「デザインウエーブ事業」を開始、全国規模のデザインコンペやワークショップを実施しており、全国の若手プロダクトデザイナーの登竜門となっています。
最近では、行政が主体となり統一ブランドを創出。第1弾は越中富山「幸のこわけ」。今年度第2弾の「技のこわけ」をリリースしています。
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②高岡地域地場産業センター
高岡地域は銅器、漆器、木地などの伝統工芸が盛んです。しかしバブル崩壊以降、厳しい産業情勢になっており、センターでは地場産業の販路拡大支援や人材育成を進めています。
市は伝統工芸伝承のため、2006年から市内の小学校5・6年、中学1年時に年間35時間「ものづくり・デザイン科」という授業を実施しています。子どもたちのためにセンター、さらに伝統工芸事業者がサポートしており、教師への技術指導も行っているとのこと。
さらに高岡工芸高校、富山大学芸術文化学部もあり、一貫した技術者育成を進めるとともに、産学官民連携で伝統工芸の伝承を図っています。
このほか高岡市では30年にわたり「クラフト市」を実施するなど、市を挙げて伝統工芸の維持継続に努めています。
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③民間事業者訪問
○株式会社 能作
伝統技術を活かし、100%錫の加工製品で新たな市場を開拓。
目を奪われる製品が多数並んでおり、斬新なデザインや用途で海外市場にも展開しています。
本年4月、富山県総合デザインセンターの近くに新工場を稼働。工場見学や体験コーナーなど産業観光拠点にもなっており、目標年5万人のところ、2か月ですでに2万5千人の来場者があるとのこと。
私も作業場を見せていただきましたが、職人さんの平均年齢は30歳代前半と若い世代が育っているとのことです。
体験工房やショップのほか、木型の展示や、社員おすすめの県内のお店情報など、県全体の情報発信も行っています。
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○有限会社 Momentum factory Orii
高岡の銅器製造は工程ごとに分業で成り立っているといいます。
モメンタム ファクトリー オリイ 様は銅器への着色を行う会社で、現社長は3代目。バブル崩壊後の26歳の時に家業を継ぎ、業界の惨状に危機感を持ったそうです。
「伝統工芸士」として活躍中で、古来の手法に加え、新たな着色技術を開発し、従来のジャンルに加えインテリアクラフトなどを手がけ、高級ショップなどで取り上げられているようです。
社長様に実際に着色作業を見せていただき、現場を回っていただきましたが、この会社も職人の平均年齢33歳と、若手職人が活躍していました。
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○ホクセイプロダクツ株式会社
アルミを中心とした金属関連企業。グループに製造会社もあり、薬のラミネートなど独特の技術を持っています。
高岡を拠点に、スウェーデン、アメリカに子会社を持つほか、沖縄の事業所は「アジア事務所」と位置づけるなど国際展開を推進。さまざまな商品を輸出入する商社機能も持つとともに、高純度アルミや高機能素材を提供し、地域企業の技術革新を支援しています。
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<所感>
伝統工芸ではありませんが、本県のものづくり産業は、すでに海外展開など産業構造の変化の波にもまれており、今後さらに自動運転や電気自動車の開発の中、影響は大きくなってくると考えられます。
これらの中小企業支援のためには、これまで培ったものづくり技術に、デザインの力などを取り入れて、さまざまな分野に展開していく必要があるのではと思います。
浜松には静岡文化芸術大学がありデザインに携わる学生も多数います。産学官連携により若い感性やアイディアによるデザインの力を活かした産業支援に取り組めないか検討します。
高岡の伝統工芸の歴史、現在の展開には、静岡県のものづくり産業の将来を見すえた事業構想を考えるヒントがたくさんあるような気がしました。
9月22日~24日には「クラフト市」が行われるとのこと。多くの皆さんに「ぜひ見に来てほしい」と言われました。誰か行きませんか?