フラウンホーファー研究機構

欧州視察のため、しばらくブログをお休みしていました。

今後、徐々に視察先の報告をしますが、まず、最大の関心項目であった「フラウンホーファー研究機構」をレポートします。

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◆視察先 ドイツ・バイエルン州 ミュンヘン市

ミュンヘン市は人口約140万人。ドイツ国内ではベルリン、ハンブルクに続く3番目に大きな都市でバイエルン州の州都です。

1972年にミュンヘン五輪と札幌冬季五輪が開催されたことから両市は姉妹都市提携しています。

産業も盛んでBMWやシーメンスなど世界的な大企業の本社があります。

◆フラウンホーファー研究機構の概要

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フラウンホーファー研究機構の創設者ヨセフ・フォン・フラウンホーファー氏は研究者であり企業家、発明者。以来、実践的な研究を中心に、ドイツや欧州の国際競争力強化をサポートするため、最良の研究施設を提供しています。

フラウンホーファー研究機構はドイツ国内40か所に66の研究所を持ち23000人のスタッフが勤務しています。

年間の予算は約20億ユーロで研究開発に17億ユーロを活用しています。

研究開発費の30%を州政府が拠出し、残りの70%は自ら調達しています。そのうち30%はEUやドイツ政府など公的機関からの受託研究で、40%は産業界(企業)からの受託となっています。このように民間の比率が大きいことが特徴で、この点からも実践的な研究が行われていることがうかがえます。

研究分野は大きく7分野。情報通信技術、ライフサイエンス、光・表面技術、マイクロエレクトロニクス、生産技術、材料・部材、VVS(公共交通?)の防御と安全となっています。

このうち最も古いものは生産技術部門で、第二次世界大戦後の1949年、壊滅的だった産業再生のサポートのために創設されました。

最近ではマイクロナノ技術のイノベーションのために外部の研究機関とも連携しています。

研究開発は産業の先をみすえて進めることが大切。代表的な事例として“MP3”の開発があります。

産業界との契約は年間約9000件、452百万ユーロにのぼり、40%が中小企業で60%が大企業とのこと。設備を持っていない企業のサポートも行っています。

MP3などのライセンス収入も年間1億2千万ユーロ。2001年からのスピンオフ企業は250社に上ります。

研究者の育成を進める教育機関としての役割を持ち、産業界と基本的ノウハウをつなぐブリッジ役も果たしています。

研究は産業界のため需要と供給を考えて進めているとのこと。大学や高等教育機関との連携も密で、研究所のダイレクターは大学教授もやっています。

これには、大学の持つ「基本的ノウハウの共有」と「若い人材の確保」という2つのメリットがあるとのこと。さらに学生がフラウンホーファー研究機構で研究し博士号を取得することも可能です。

大学から直接人材確保できることは企業との人材獲得競争上のメリットにもなっています。ちなみに給与は大企業のほうが2倍くらい高いケースもあるようですが、フラウンホーファー研究機構のネームバリューは研究者が将来転職する際にも役立つようです。若い人材の50%は有期契約で、企業に転出するようです。

基礎研究が主であるマックスプランク研究所やさまざまな企業、海外との連携も進めてます。

66ある研究所には評議会が設置されており、評議員には産業界の代表者も入っています。評議会は産業の将来展望だけでなく、日々の業務課題や方向性についても具体的に議論しています。

日本にも2001年から拠点(日本代表部)を置き、仙台市(2004年~マイクロエレクトロニクスメカニカルシステム等)、三重県(2008年~高度部材)、産総研(2012年~人材交流)、福島県(2014年~再生可能エネルギー)との共同研究を行っています。

◆Q&A

Q 有期契約社員の労働条件や守秘義務は?

A 労働条件は正社員も有期契約社員も同じ。給与水準は公的機関の給与表に合わせている。契約期間はケースバイケースだが、2年から3年で延長もある。

Q 産業界とのマッチングを行う“目利き”の育成は

A 研究所の現場で産業界に近い人が行っている。整った育成の仕組みはないが、あえて言えば、開発製品の営業のための教育は行っている。研究員は常に産業界と関係を持っており、66の研究所は常に戦術を考えねばならない。本部では5年ごとに戦術会議を行っており、66の研究所の担当者が集まり、今後のトレンドを話し合う。それに合わせてグローバルに戦略を立て、予算を確保する。

Q 日本での取り組みは?

A 日本代表部でマーケティングしており産業界や研究機関とコンタクトとっている。直接の研究室はなく小さなグループだが大阪で産総研、仙台で東北大と提携し基礎研究を行っている。フラウンホーファー研究機構にも成果が入ってくるし、日本側もアプリケーションを学ぶことができる。三重県は具体的な成果が出ておらずショールームの設置を提案している。福島県では太陽光発電の新しい研究をしている。

Q ハードは最低どのような規模が必要か?

A 研究室は自分たちで開設する。規模は研究内容によりケースバイケース。北ドイツにある風力発電の研究施設はかなり大きい。

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Q インダストリー4.0は「生産改革」のように感じるが、全く異なる「産業革命」か?

A 生産のデジタル化である。時間のロスをなくし、機械と製品の同時性を高める仕組みだ。
ソフトウェア、ハードウェアを最も有効に使い、生産現場とのコミュニケーションを最良にしていく。

Q インダストリー4.0はISOのような国際規格を目指すのか?

A 規格化は考えていない

Q フラウンホーファー研究機構は、インダストリー4.0で中小企業の生産性向上改革のサポートを行うと聞いているが、どのような役割を担っているのか?

A インダストリー4.0の導入について中小企業はまだ躊躇している。大企業の様子を見てから考えているようだ。大企業はいくつかのプロジェクトを進めているが、中小企業でどの程度導入できるかはケースバイケースになるのではないか。まだ不明確であり研究が必要な部分が多い。いずれにしてもまだ始まったばかりでありゆっくり進んでいくと思う。2016年4月19日に日本で関係するイベントを開催予定である。

Q フラウンホーファー研究機構における女性の働き方は

A 家族にやさしい組織だ。女性だけでなく男性もサポートしている。私(ホフマン氏)も子どもを会社が財政支援する託児所に預けている。出産後1年間はホームワークを行い、今は1日5時間、週30時間の短時間勤務だ。

Q ノーベル賞を獲得するような研究はしているのか?研究期間はどのくらいか?

A ノーベル賞は主に基礎研究が対象であり、フラウンホーファー研究機構の研究は実用研究なので少し違う。2-3日のプロジェクトもあれば、10年以上かかるプロジェクトもある。今、日本で進めているプロジェクトは10年以上かかるだろう。

Q 留学生の受け入れは行っているか?

A 受け入れはOKだが費用は自己負担となる。職員応募しているので就職もできる。最低限英語が話せないといけない。

Q 日本では理科系人材が不足しているがドイツではどうか

A ドイツも同様の傾向にある。

◆まとめ

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今回のミッションは「欧州最大の応用研究機関であるフラウンホーファー研究機構の概要」と「インダストリー4.0」でしたが、残念ながら後者について詳細を調査することはできませんでした。

フラウンホーファー研究機構は企業の商品開発をサポートする実践的研究機関で、日本でいえば「産業技術総合研究所」や県の「工業技術研究所」に近い事業を行っています。

大きな違いは「規模」と「自らおカネを稼ぐ」ところです。

とりわけ後者が実践的研究を支えているのにつながっていると感じました。この点が大学や公的研究機関に欠けているところであり、日本の研究機関も参考にしなければいけない点です。

また基礎研究は大学やマックスプランク研究所などに任せ、徹底的に実践研究を進めるところも差別化が図られておりユニークな点と感じました。

本県においても「オープンイノベーション」の取り組みが始まり、産総研と企業をつなぐ取り組みを始めましたが、こうしたマッチング機能を強化することに加え、さらに「工業技術研究所」と「産総研」「他県の公的研究機関」との連携を深めることによって、地域産業のイノベーションにつなげる必要があると感じました。

インダストリー4.0は今後の産業構造を変える可能性があるとみられていますが、ドイツではまだ試行錯誤しているようにも感じました。とりわけ中小企業においては様子見の状況がヒアリングからうかがえました。

一方、米国ではインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)がすでに具体的な事業を進めています。本県産業の将来を考える上では、引き続き目が離せない取り組みであることに変わりはないと思います。

引き続き、最新の情報をウォッチしていきます。

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